近年、車載半導体のEMC試験の需要が急増しています。
本コラムではこの領域での長年の経験と専門知識を持つ当社、デンケンが試験の流れとその方法について具体的に説明します。その過程で、私たちがどのように試験場所を選定し、どのように試験を実施するのかを、これまでの実例とともに体験していただきます。
仮想のクライアントの設定は、過去に実際のクライアント様よりご依頼いただいた経験に基づいています。そのため、デンケンを選択した理由や試験の進行具体的な流れを深く理解することが可能です。
本コラムには、半導体のEMC試験に関する基本的な情報や、40年以上の半導体事業で培ってきたデンケンならではの強みを盛り込んでいます。これから半導体のEMC試験を検討される方にとって、有用な情報を提供できると確信しています。どうぞお気軽にご一読ください。
※ここで述べられるケースは具体的なお客様の事例に基づいていますが、プライバシーと契約による秘密保持義務の観点から、お客様の具体的な名前や詳細は明らかにされておりません。
半導体のEMC試験が求められるシチュエーション
具体的な試験の流れに入る前に、どのような状況で半導体のEMC試験が必要になるのかを解説します。
1. 後継品への提案時
生産終了品に対して後継品を提案する際、製造メーカーや生産工場、生産工程が変わると、前の製品と新製品のEMC性能が同等であることを証明する必要が出てきます。この検証は、安全性を確認する上でも極めて重要です。
2. 競合製品との差別化
既存製品の優位性を証明するために、製品単体でノイズ耐性や特性評価などを実施します。これにより、他社製品との差別化を図り、評価データを取得します。
デンケンは、これらの状況に対応する豊富な経験を持っています。
注目の車載半導体のEMC試験:「DPI法」と「150Ω法」について
自動車は多くの車載機器を備えています。完成車だけでなく、各車載機器に対してもEMC規格が存在し、それぞれにEMC試験が求められます。
そのため、製品の変更(PCN)でEMCの再評価が必要となると、再試験には多大な手間と時間がかかります。
そこで、「ユニット(半導体製品が組み込まれた状態)試験の省略」と「技術者の負担軽減」を目指し、半導体製品単体のEMC性能の等価性を確認することで、車両EMC性能の等価性を判定できるケースが策定されました。
つまり、半導体製品単体のEMC性能を確認すれば、その半導体を使用している製品の試験は不要となるのです。
これが2021年5月に規格化された「JASO D019(自動車用半導体EMC性能等価性試験法)」です。JASO D019では、IEC 62132-4(DPI法)とIEC 61967-4(1Ω/150Ω法)が参照されています。
伝導性イミュニティ評価:DPI法(IEC 62132-4)
DPI法は半導体の各端子に容量性結合でノイズを直接注入し、誤動作の有無を確認する試験方法です。
通常の周波数範囲は1MHz〜2GHzですが、デンケンでは1.5kHz〜4GHzに対応しており、多様な製品の評価が可能です。
伝導性エミッション評価:150Ω法(IEC 61967-4)
「1Ω/150Ω法」は電源、信号、GNDの伝導ノイズを測定する試験方法で、「150Ω法」は線路のインピーダンスを150Ωに設定してグランドとの電位差を測定します。
IECやJEITA規格の周波数範囲は150kHz〜2000MHzですが、デンケンでは10kHz〜6GHzに対応しており、多様な製品の評価が可能です。
「他で断られた」「難しいといわれた」という方でも、お気軽にご相談ください。
DPI法・150Ω法のメリット
DPI法と150Ω法を使用して半導体単体のEMC性能を確認することで、ユニット試験が不要になります。その結果、試験時間は大幅に短縮できます。
例えば、LINトランシーバーがECUに組み込まれている場合、LINトランシーバーのEMC性能を確認すれば、それらの製品の試験は不要になります。
JASO D019が規格化されて以降、「DPI法」と「150Ω法」は注目を集めており、これが今後の標準となることが予想されています。
デンケンは半導体関連事業に40年以上携わっており、「JASO D019」の規格制定においても、暫定版規格に基づいた測定と規格制定のための評価のお手伝い※1をしてきました。その後も順調に実績を積み重ねています。
※1. 2021年春、JAMA(自動車工業会)に提出した弊社の測定結果が採用されました。
車載半導体のEMC試験の流れ
以下では仮想のお客様を設定し、具体的にどのように車載半導体のEMC試験を進めていくのか見ていきましょう。
今回は最もご依頼が多い「生産終了品に対して後継品を提案する場合(メーカー変更)」を想定しています。
※仮想ではありますが、「デンケンを選んだ理由」や「試験終了後の感想」は実際のお客様の声に基づいています。
※当社は、お客様の個人情報と企業情報を厳重に管理し、秘密保持に関する契約に従って、具体的な名前や詳細情報の公開を避けております。
お客様のご依頼内容
大手車載部品メーカー
- メーカーの変更のため、オペアンプのEMC試験(DPI法、150Ω法)を希望
- 時間がないので、24時間体制で試験を代行してくれる試験場を希望
1. 試験場探し
インターネットで車載半導体のEMC試験「DPI法」「150Ω法」行っている試験場を検索した結果、全国に数件しかないことが判明。精査した結果、以下の理由でデンケンに決定。
デンケンを選んだ理由
- 長年、半導体事業に携わっており、信頼できる。
- 電話で問い合わせた際、半導体単体のことだけでなく、回路のことまで詳しく説明してくれたので安心して任せられると思った。
- iNARTE (アイナルテ)の資格保有者がいる
- DPI法、150Ω法の実績が多い
- JEITA規格(半導体)オープンフォーラム2021でデンケンが発表した「半導体EMC性能等価性の評価事例」を聞いて気になっていた
- 24時間体制で試験を代行してくれる
- 試験場と会社が近く、見学に行きやすい
2. お問い合わせ
デンケンにメールし、オペアンプのEMC試験を希望している旨を伝える。
同時に、ホームページ(リンク)で、部屋の空き状況を確認。
◎試験のご依頼以外にも、EMC試験についてご不明なことがあればお気軽にお問い合わせください。
3. 依頼内容を伝える
問い合わせ後、デンケンより送付された所定の用紙(テストプラン 依頼書1. 依頼書2)に規格・試験の詳細等を記入し、デンケンへ送り返す。
4. 見積もり
テストプランを確認したデンケンより送付された見積もりを確認。
5. 依頼
見積もり金額に納得できたので、正式にご依頼をいただく。
6. 条件決め
ICのデータシートにある製品情報を確認。
テストプランをもとに測定端子や判定方法を検討した後、分からない箇所は訪問して確認する予定だったが、時間が取れなかったのでズームで質問。
※試験の前に様々な条件を決める必要があります。
ICのデータシートをご確認いただいた後、「測定端子選定」→「準拠する規格の確認」→「周波数やステップを決定(準拠する規格によって変わります)」へと進みます。
依頼書に沿ってご記入いただければ大丈夫ですが、ICのデータシートがない場合や、不明点はお気軽にお問い合わせください。お客様にしっかりヒアリングした上で、デンケンが条件の選定をサポートさせていただきます。
7. ICの準備・受け渡し
IC・動作に必要な部品・基板を準備し、デンケンと共有。
8. 試験環境の確認
デンケンがWeb上にアップした「試験環境を撮影した写真」を確認。
9. 試験開始(デンケンが24時間体制で代行)
試験の事前準備が全て終わり、いよいよ試験へ。
今回は、デンケンに試験代行を依頼。
試験は、お試しの「味見試験」、「本試験」、本試験で想定以上の比較差が出たとき等に行う「追加試験」の3種類あります。全て、DPI法(伝導性イミュニティ評価)と150Ω法(伝導性エミッション評価)を同時に行います。
デンケンが試験を代行する場合でも、進捗状況を共有しますので、安心してお任せください。もちろん、見学もできます。
試験時間の目安
前任品、後継品の両方を試験する必要がありますので、それぞれ以下の×2の時間がかかります。
- 味見試験
製品によって異なりますが、1端子1~2日程度 - 本試験
DPI法: 1端子あたり1日半程度
150Ω法:1端子あたり1時間程度 - 追加試験
どのような追加試験が発生するかによって異なります。
代行を希望された場合、試験は全てデンケンが行いますので、ここからはお客様目線ではなく、デンケン目線でご説明します。
【味見試験】
まずはじめに味見試験を実施します。これは“味見”の名の通り、一部を抜粋して行うお試し試験です。味見試験の結果をお客様に報告し、本当に現在の条件で良いのか、最終調整を行います。
■DPI法
端子に容量性結合でノイズを直接注入し、誤動作の有無を確認。味見試験では測定ポイントを一部抜粋して行います。(例:測定ポイントが200あれば、その中から20をピックアップ)
- 赤線、青線
青が現行品、赤が後継品です。誤作動ポイントを比較し、その差を見ます。 - 判定10%
誤作動の判定値です。グラフの場合、5Vを基準として、4.5V〜5.5Vの範囲内であればOKということになります。 - 緑線
緑は印加上限(これ以上ノイズを入れると壊れてしまいますよ、という限界点)です。EMC試験は前任品、後継品の誤作動ポイントを比較する試験ですので、印加上限に達しても誤作動を起こさない場合は、ノイズ耐性を良くするためにコンデンサを使用する等、対策します。
■150Ω法
「1Ω/150Ω法」で電源、信号、GNDの 伝導ノイズを測定。「150Ω法」で線路のインピーダンスを150Ωに設定してグランドとの電位差を測定。
- 赤線、青線
青が現行品、赤が後継品です。ノイズスペクトラムを比較します。
【本試試験】
味見試験後、条件等に問題なければ、本試験へ進みます。
■DPI法
1端子あたり、周波数ステップで250ポイント程度測定(下グラフの場合)、試験周波数毎に試験レベル(電力)を段階的に上げていき、その都度、半導体の性能確認を行います。
例えば、測定周波数ステップごとに0.5dBmづつ電力を上げていき印加上限又は、誤動作が発生するまでノイズ印加した場合、全測定するのに3000ポイント程度を確認することになります。
ノイズを入れる時間(5秒程度)を加えると、単純計算で1万5,000秒。誤差の状況によっては途中でストップすることもありますので、試験には1日半程度を要します。
■150Ω法
指定の周波数に対して、規格から試験の条件を設定し測定を行います。1回の測定で掃引を10回行うので、1測定あたり1h程度の時間がかかります。
【追加試験】
DPI法、150Ω法共に、本試験で想定以上の比較差が生じた際は、定数の変更や、電源電圧 など試験条件を変えて再度試験を行います。
追加試験まで行っても、比較差が大きく、後継品が試験をクリアできない場合もあります。
その際は、長年の経験から対応策をご提案することもできますので、お気軽にご相談ください。
10. 試験終了の連絡
デンケンから試験終了の連絡を受ける。
11. ICの受け取り
デンケンから試験に使ったICを受け取る。
◎後片付けはデンケンが行いますので、受け取るだけで大丈夫です。
12. レポート確認
デンケンから送られてきた、試験結果をまとめたレポート確認。
受け取った旨をデンケンへ連絡。
13. 試験終了後
試験終了後、再びご依頼(車載EMC試験、インピーダンス(交流電流に対する抵抗値)測定など)を頂くことが多いです。
これは試験工程、対応、結果にご満足して頂いている証であると考えています。
◎デンケンでは、半導体後工程サービスで培った技術を半導体EMCへ活用した複合的なサービスも行っております。お気軽にご相談ください。
最後に
デンケンの「中部センター EMC試験サイト」は、自動車産業が盛んな愛知県に位置しています。ここでは車載半導体のEMC試験を多数手掛けてきました。
また、私たちは50年近く半導体関連の事業に従事しており、半導体に関する知識、技術、経験、実績は他には負けません。
EMC試験だけでなく、半導体の開発から各種認定試験、故障解析までトータルでサポートすることが可能です。
半導体やEMC試験に関する問題がある場合、どうぞお気軽にお問い合わせください。
半導体EMC試験(DPI試験、VDE試験)評価はデンケンにお任せください